UP FRONT

2008-09-18

【人物クローズアップ】英・高級新聞『ガーディアン』紙が“東京一の居酒屋”に選んだ「てやん亭」グループを率いる“ガンさん”に聞く!
「背伸びせずに等身大でやってきたからよかった。居酒屋で成功したければ“人間力”を磨け!」
――株式会社ベイシックス 岩澤博さん インタビュー

イギリスの高級紙『ガーディアン』の「Top 10 izakaya inTOKYO」でトップに選ばれた「てやん亭゛西麻布店」。経営者は“ガンさん”と慕われる、株式会社ベイシックス・代表取締役の岩澤博氏だ。アパレル業界を経て、飲食店業界に転身したのが20年前。西荻窪で「てやん亭゛」(現在は「ごりょんさん」)を開店し、現在は都内に6店舗を構える氏の店は、いずれも家賃の10倍以上の売り上げを叩き出し続ける繁盛店だ。日々スタッフと楽しみながら、店づくりに熱く取り組むガンさんならではの経営スタンスを、 2007年6月にオープンさせた六本木・芋洗坂の「ジョウモン」で伺った。

数字で具体化した目標に突っ走るよりも、できることをコツコツと積み上げ、地道に進んでいくタイプ。

「てやん亭゛西麻布店」のオープンは 1997年の5月。西荻窪、表参道に続く3店舗目です。看板もなくて、一見スタイリッシュなんだけど、中に入ると実は活気ある居酒屋、というのが受けたのかな。当時の西麻布は、外装や内装に凝った箱重視の店が多かったから。狙ったわけではないんだけど、広告代理店系の人たちが集まってくれて、口コミで広まりました。半年後には、20坪・40席で、月商1000万円といういい結果が出た店です。

今は4業態・6店舗を経営していますが、「○年までに○店舗」と数字で出店目標を掲げたわけではなくて、その時にやりたいと思ったことを、できる範囲でやってきました。ただし、やるからにはそのエリアで1番になる! という目標を常に掲げています。背伸びせずに、等身大で進んできたのがよかったのかもしれない。ウチの店にいるスタッフは、本格的に料理を学んだ調理人というのはほとんどいません。だから料理は、上質な素材をシンプルに調理した、わかりやすいものばかり。「ごりょんさん」や「ジョウモン」の博多串焼は、そのいい例ですね。「自分に串焼きが焼けるだろうか?」と不安がるスタッフには、お客さんと一体になる喜びを味わってもらうことが必要。しっかり仕込みをした肉に、パッパッと格好よく塩をして、炭火で楽しげに焼き上げて、「はい、お待ち!」と威勢よく出せば、目の前のお客さんは「おいしい!」と喜んでくれる。目の前で喜んでもらう快感を一度味わえば、技術はいくらでもついてきますよ。

居酒屋に必要なものは何か。それを教えてくれた師匠は二人いる。

そう、居酒屋に必要なのは、人間力。僕が居酒屋の経営者として尊敬している人物は二人いて、一人は、“宇野のオヤジ”こと、株式会社楽コーポレーションの宇野隆史社長。飲食業界に転身してから独立するまでの5年間、宇野のオヤジの店で働かせてもらいました。創作料理、大皿料理のブームに触れながら、おもしろい人間性を育むことこそ、居酒屋経営に大切なんだと学びましたね。彼ほどおもしろい人間はいません。もう一人は、大阪でトラック一台の屋台居酒屋を営業している“とよさん” 。とよさんは一人で店を切り盛りしていて、いつも大声で叫んで、お客さんを楽しませながら仕事してるんです。いつ行っても、17時前から行列ができてますよ。屋台なのに、一日に70万円もの売り上げる、とんでもない繁盛店です。実はつい先日もスタッフと一緒に行ってきたんですよ。

飲んで、遊んで、一緒に楽しむ。これぞ人間力を鍛えるガンさん流の教育!

スタッフの人間力を育てる一番いい方法は、自分とスタッフが一緒になって、心から楽しむことだと僕は考えています。自分の背中を見せて何かを学ばせるのではなく、あくまでも、楽しさを共有するスタンスです。だから、僕はスタッフや後輩を連れて、よく飲んで、よく遊ぶことにしています。人からは、“チーム・イワサワJAPAN”なんて呼ばれたりして(笑)。行くのは、自分の店だったり、気になる店だったり。国内はもちろん、海外にも行きます。せっかく繁盛しているんだから、その恩恵はスタッフにも還元して、「飲食業は楽しい」ということを肌で感じてもらいたいですから。社長の自分だけがいい思いをしよう、なんて思っていては、人は育ちませんね。僕の店から独立した人間は10人以上いるけれど、みんなスポンジのように僕のDNAを吸収し、何かを感じ取り、それを各々の店で表現しています。人間力は、心で感じ取らないと育たない。マニュアルや朝礼では身につかないんじゃないかな。

一方で、苦労もさせる。お客さんを集めるための工夫は、考えなければ身につかないから。

もうひとつは、苦労したり、頭で考えたりするチャンスを奪わないこと。僕の店はあまりメディアに出ないので、“取材拒否店”と言われることがあるけれど、これはお高くとまっているわけではなく、スタッフ教育のためなんです。メディアに露出すれば、お客さんは自動的にやって来る。それで売り上げが伸びたとしても、スタッフは集客するための工夫や苦労を知らないままになってしまう。それでは、1店舗を安心して任せられる人間が育たない。経営者とは、運営を任せられるスタッフを育て、ゆくゆくは独立させることが仕事だと僕は思っています。つまり取材を受けないのも、スタッフに苦労をさせるため。2001年にオープンした「てやん亭゛渋谷店」は、わかりにくい場所ながら、7年目になった今でも売り上げが伸びています。元店長がそろそろ独立するんですが、彼はずっと売り上げを伸ばし続けてきました。「ジョウモン」も、18坪・40席で、この夏は月商1,200万円の記録を更新しました。この数字も、夏場は外で立ち呑みできるような工夫をしたからこそですね。

それから、今は現場に出ていない僕ができるのは、客目線で店を見ること。という大義名分もあって、自分の店で、自分のお金を払って、毎晩飲み歩いているわけです(笑)。その目線で気づいたことを伝えると、スタッフは頭で考えるようになります。この前も新作メニューの打ち合わせで、「メンチカツって、肉汁がジュワ〜っと出てくるのが旨いよなぁ」なんて何気なく言ったら、次の試作で、本当に肉汁が溢れ出るメンチカツが出てきたんです。それを作った彼は、肉の叩き方やらミンチにする方法やらを、必死に研究したらしいんです。調理の経験なんて浅いはずなのに…何でも言ってみるものですね(笑)。これは「てやん亭゛西麻布店」で、「黒豚メンチ」として登場しますよ。
 こんなふうに、楽しんで、苦しんで、考えると、人間力が養われてくる。人間力があるスタッフがいれば、店に活気が出て、お客さんと一体化できる楽しい雰囲気が生まれてくるんじゃないかな。

店とは、スタッフが演じる劇場。箱だけが整っても、任せられる人間が育っていなければ、新店は出さない。

順調な「ジョウモン」は、もう1店舗くらい増やしたいなぁと思っています。だから、物件探しはいつもしていますよ。店は、劇場。スタッフが生き生きとして、お客さんを楽しませるための舞台ですから、物件に妥協はしたくない。居抜き物件ではなく、スケルトン物件にこだわるのも、そのためです。店舗デザインは、20年前の西荻窪の店からずっと、スタジオムーンの金子さんにお願いしています。古材を使った、雰囲気ある店づくりは、彼ならではの仕事。僕が考えている倍以上の結果を出してくれる、素晴らしいデザイナーです。とはいえ、いくらいい物件が見つかっても、1店を完全に任せられるスタッフがいなければ、新しい店はつくりません。いい家を建てるには、基礎がしっかりしてなければいけませんよね? 店づくりの場合、その基礎とはスタッフなんです。だからこそ、僕は一緒に楽しんで、人間力のあるスタッフを育てることを大事にしているんです。スペインで行ったバルは、カウンターに大皿料理がいろいろ並んでいて、都内のスペイン・バルとはまた違ったおもしろさがあったから、それをヒントに何かできないかなぁと考えてたりして…となると、やっぱりスタッフが必要! 今夜も、飲んで、遊んで、楽しんで、スタッフ育成に励みますよ(笑)。

<プロフィール>
1961年生まれ。東京都葛飾区出身。アパレル業界の営業マンを経て、27歳で飲食業界へと転身。5年後の1993年、西荻窪に9坪・22席の「てやん亭゛」(現在は「ごりょんさん」へと業態変換)をオープンさせる。以後、表参道、西麻布、渋谷、六本木へと着実に店舗を展開し、現在は「てやん亭゛」、「ごりょんさん」、「おけやの鈴太郎」、「ジョウモン」の4業態・6店舗を経営。夜毎飲んで、唄って、自店や他店の空気を敏感に感じ取る様子はブログにも掲載しており、スタッフ育成や店舗経営に反映させている。名刺には“代表取締役singer”の肩書きがあり、実は歌手になりたかったという一面ものぞかせる。

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