UP FRONT

2006-05-11

人気の「スペインバル」を徹底検証!
タパスにイベリコ豚にスペインワイン。その魅力とは?

スペインバルの人気が続いている。流行りの“立ち飲み”的な楽しみと“タパス”や“ピンチョス”といったおつまみのおシャレ感。「イベリコ豚はどんぐりしか食べないんだって。」なんてウンチクを傾けつつ、カバを一杯。 でも本当のところ「スぺインバル」ってなんなんだ?

エル・ブジとタパス そしてピンチョス

「コシーナ・ヌエバ=新しい料理」という潮流の源であり、今なおその最先端を走り続ける“エル・ブジ(エル・ブリ)”。その代名詞ともいえる空気の力で素材を泡立てる“エスプーマ”のテクニックは世界中の料理人に模倣され、既に手垢にまみれた感は否めないが、この革命的なレストランのため一気にスペインの食および食材に注目が集まったのは間違いない。
“斬新”“意外性”といった枕詞がつねに用意されるエル・ブジの料理。しかしそのめくるめく料理のアイディアに見え隠れするのがバルで出されるようなタパス(=お総菜)なのだ。
タパスの語源は諸説あるがもっとも有名なのが、お酒のグラスに蠅が入らないよう一片のパンや、ハム・チーズで蓋=タパ(タッパーウエアのタパに同じ)をしたというもの。だが真偽は定かではない。「ピンチョス」は楊枝につまみを刺したもの。バスク地方がルーツといわれ、会計の際には楊枝の本数を数える。
簡単にいえば、同じお総菜でも小皿に盛れば「タパス」だし、串に刺せば「ピンチョス」になるというわけだ。

スペイン人は食事の合間に仕事するのか?

では本場スペインのバルとはどのようなものなのだろうか。
「スペイン人は一日5回食事をする」とか「食事の合間に仕事をする」と表現されるように、彼らにとって食は人生の最大の楽しみのひとつであり、同時に我々の想像をはるかに超えた豊かな食文化を持っているのだ。スペイン人の胃袋、食の世界はバルを中心に形成されていると言っても過言ではない。

通常バルは早朝から深夜まで営業している。朝7時、チュロスにチョコラータ(濃厚なチョコレートドリンク)で朝食。11時にはカフェコンレッチェ(ミルク入りコーヒー)でおやつ。午後2時には一日のメインである昼食を日替わり定食(定食といっても前菜、メイン、パン、ワインにデザートまでつく)で。午後5時から深夜まではお酒を飲みながらタパスをつまむ。もちろん昼から飲んでもいい。ひとりでも友人同士でも家族でも、好きなときに好きなように利用する憩いの場、それがバルなのだ。

現在日本でスペインバルと言われている形態は本場のバルの一部、つまり“午後5時以降”のバルの雰囲気をうつしたものでしかない。

本場スペインのバルの形態は実にさまざま。庶民的なバルはもちろん、喫茶店風バル、観光バル、学生向けバル、さらにはカタツムリ専門バルやムール貝、マッシュルーム専門など特定の一品料理のみで勝負する店もある。そんな“ご自慢タパス”を求めバルのハシゴをするのもスペイン人の楽しみだったりする。
トルティージャ(スペイン風オムレツ。メキシコ料理のトルティーヤとは別もの)やクロケッタ(コロッケ)、イワシの酢漬け、カジョス(もつ煮込み)などのタパス類が寿司屋のネタのごとくガラスの“タパスケース”の中に入っていることが多い。さらにオリーブやハモン(生ハム)がバルのつまみの定番だ。

すべての豚にサン・マルティンの日がやってくる

いま日本でスペインバルを名乗っているところで、イベリコ豚の生ハムを置いてない店はまずないだろう。それを日本人のブランド信仰と笑ってはいけない。本場スペインでも“ハモン・イベリコ”は高級品。バルでワインやビールが150円前後のところ、一皿あたり2,000円は下らない高嶺の花なのだ。
生ハム全般を指す“ハモン・セラーノ”は直訳すれば“山のハム”の意。山岳地方で作られてきた保存食だ。
イベリア種の豚で作られるのが“ハモン・イベリコ”。ポルトガル国境近くのハブーゴ村がよく知られた産地で、その名を取り“ハモン・デ・ハブーゴ”とも呼ばれる。イベリア種の豚(イベリコ豚)は祖先がイノシシ。色が浅黒く、足が強くて筋肉質。黒い足とツメを持つ傾向が強いが100%ではないので、残念ながらそれでイベリコ豚の真贋を確かめることはできない。(上の写真を見て欲しい。白いツメと黒いツメ。共にハモン・イベリコだ)
山の中で一年以上自由に運動し、さらに肉質はぐっと引き締まる。炭水化物=どんぐり(ベジョーダ)をたっぷり食べることで脂のサシがしっかり入ったいわゆる“霜降り状態”になるわけだ。“ハモン・イベリコ・デ・ベジョーダ”なら“どんぐり育ちのイベリコ豚の生ハム”となり最高級品といえる。

気ままにどんぐりを食んでいた豚にも運命の日はくる。「すべての豚にサン・マルティンの日がやってくる」とは「すべての物事には、決められた結末がくる」という意味のスペインのことわざ.。聖マルティンの日(11月11日)には豚を殺し貯蔵用に加工するという伝統が今も残る。生ハムの作り方は至ってシンプルだ。塩をして、干して、熟成させる。一切加熱はしない。現在では多くの生ハムが工場で作られているが、その生産管理には昔ながらの職人の厳しい目が光る。
鮮烈な紅色にきらきらと浮き出る濃厚な脂。イベリコ豚の脂の融点は19度。口にいれた瞬間、ねっとりとうま味が広がる。生ハムは高級レストランでも手で食べるのがスペイン式。バルなら言わずもがな、大いに手づかみで堪能したい。

酒とバラの日々!スペイン酒の魅力

スペインはぶどう畑の耕作面積はヨーロッパ1、生産量は世界第3位というワイン大国。その種類、品質ともに世界最高水準である。にも関わらずフランスやイタリアのワインほどは知られていないのは、その大半が国内で消費されているためだ。しかし世界レベルでのスペインブームで俄然スペインワインにも注目が集まっている。原産地呼称(DO・ディーオー)というぶどうの栽培や醸造に関する管理基準が設けられ厳しくその品質がチェックされている。もっともスペインにはそのような認定がついていなくても美味しいワインがいくらでもあり、バルではグラスで150円程度、ボトルでも500円前後から飲めるのだからうらやましいかぎりだ。

ワインのほかスペインが世界に誇るお酒が「カバ」と「シェリー」だ。カタルーニャのスパークリングワイン「カバ」はフランスのシャンパンとまったく同じ製法で作られ、その味・品質ともにフランスのそれに匹敵するといわれている。
「シェリー」とはじつは英語名で、スペインでは「ヘレス」、“ヴィノ・デ・ヘレス=ヘレスのワイン”という。なぜヘレスがシェリーとして広まったかというのは歴史の話になる。スペインの無敵艦隊を破ったイギリス軍が南部の港を制圧。その際このヘレスのワインを大いに気に入り、以後イギリス人が世界中に持っていったためだ。
とはいえスペインのバルでもっとも飲まれているのは“セルベッサ”=ビールだったりする。

銀座のスペインバル2軒の店長に聞く

昨年8月オープンしたスペインバル「マルコナ」。ソムリエとチーズアドバイザーの資格を持つ店長の宮本慶子さんはイタリア料理出身。ご主人の転勤で行ったニューヨークではホームパーティーなどの“おもてなし料理”の教室を開いていたという経歴の持ち主。スペインワインの権威・畠盛敬二氏との出会いからスペインのワインや食を学び、マルコナオープンとなった。ネット上でワインショップを運営する有限会社オーケストラが経営しているので、スペインワインのみ50種類以上という品揃えが圧巻。さらにスペインワインの「古酒」が飲めるということでも話題の店だ。旬の素材を使ったタパスのほか、宮本さんの手作りケーキも楽しめる。店名の「マルコナ」はスペイン産のアーモンドの名前で、有名パティシエも使っている高級品だ。こじんまりしていながらも女性が店長の店らしく、落ち着けるシックな雰囲気だ。

もう一店、エスパーニャバル「Cadiz(カディス)」。沖縄料理「ふらり」「まんま」などを展開する株式会社ナカタツの新業態として昨年9月オープン。店長の島崎泰彰さんは大学時代よりたびたびスペインを訪れ、卒業後マドリッド内の数店のレストランで三年ほど修行。その間マドリッドに林立しはじめた“エル・ブジ”的なレストランから、庶民的なバルまで足繁く通いスペインの最前線、そして伝統の「食」を体感してきた若き料理人だ。本場スペインでふれてきた料理を独自にアレンジしたメニューの数々、またコースで味わえるパエリアも評判だ。
「タパスを日本人向けにアレンジしているか」という問いに二人ともきっぱり「している」と答えた。「“じゃこのブルスケッタ”のように日本人になじみのある食材や、日本の季節感に合わせた食材は柔軟に使っていきます。やはり日本人ですから、日本人の口に合うもの、そしてなんと言ってもおいしいスペインワインに合うものを出したいという思いがあります」とマルコナの宮本さん。

一方、カディスの店長の島崎さんは「たとえばスペインと日本のトマトを比べると、これは全然ちがいます。スペインのトマトは種類も豊富で味も濃い。おなじレシピで作っていては、まったく違った味になってしまいます」と話す。すべての食材をスペインのものにすることも可能ではある。しかしそうなるとコストが上がり、“気軽に楽しめる”というバルのコンセプトとは矛盾してきてしまう。日本の食材の特性に合わせ作られるスペイン料理。あくまで安く手軽にという業態の枠のなかで、自分が味わってきた“スペインの味”そして“スペインの文化”の一端を少しでも伝えていきたいという真摯な情熱がある。

そしてスペインバルよ、どこへ行く。

日本の回転寿司がバルセロナなど都市部を中心に人気だという。ジャパニーズフィンガーフード文化とスパニッシュフィンガーフード文化の交差。スペイン料理と日本料理はイワシ・貝・エビ・タコなど“魚介”を中心に食材に共通するところが多いし、またスペイン料理は意外にもスパイス類がほとんど使われないので日本人が受け入れやすいという側面もある。
パエリアにガスパチョ、スパニッシュオムレツ。現在の「スペインバル」ブームは従来の固定化されたスペイン料理のイメージを払拭し、敷居は低く、間口は広く、スペイン料理・文化にふれる“導入部”としての存在意義を持ちうるのかもしれない。

スペイン料理の懐深いポテンシャルに期待し、日本の居酒屋文化にうまく融合しながら定着する可能性を感じる一方、やはり一時のブームで終わってしまうのかという暗い予感もぬぐえない。しばらくは美味しいスペインワインを片手にタパスをつまみながら、気楽に静観していくべきか。

スペインバル マルコナ
中央区銀座8-7-7 中央林ビル2F
JR新橋駅3番出口 徒歩5分 
地下鉄銀座駅 徒歩7分 
03-5568-6331
http://r.gnavi.co.jp/a237411/

Espana Bar CadiZカディス 銀座店
中央区銀座6-12-17 片桐ビルB1
地下鉄銀座線銀座駅 徒歩3分
03-3571-3271
http://r.gnavi.co.jp/g588815/

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