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【カリスマシェフの系譜(4)】“シェフV.Sお客”たった一人で挑む二子玉川「ビストロ ヴィエス」オーナーシェフソムリエ・高橋 正人氏
「ヴィエス=V.S」は“V=Vin”と“S=Sake”の造語でワインを意味するのだとか。「ワインを気軽に美味しく」をモットーに煮込み料理を中心とした“欧風おばんざい”をリーズナブルに提供する「ビストロヴィエス」。オーナーシェフソムリエを務める高橋氏は、たったお一人で18席の料理とサービスをこなしてしまう。それゆえ「シェフ‘V.S’お客」の明快な図式が存在する実に気持ちの良いレストランだ。お客のほとんどが常連客というこの小さな隠れ家の主は真っ直ぐで人間味にあふれていた(文・撮影 吉田ゆり)
【プロフィール】
高橋 正人(たかはし まさと)
1964年千葉県生まれ。高校卒業後、予備校に通うため上京するが、アルバイトがきっかけでいつしか飲食店の世界に。22歳の頃、青山「ザ・ハウス・オブ1999ロアラブッシュ」で木村 克己氏、成田 忠明氏らと出会い、ソムリエを志す。「西洋割烹 車屋」でソムリエとして修行を積む。26歳の時「ピアション」で前回のカリスマシェフ谷口氏とタッグを組む。その後、千鳥が淵「フェアーモント・ホテル」でメインダイニングの支配人を4年務める。同時に、「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)」日本酒学講師として日本酒の啓蒙活動にも励む。その後六本木「エスペランス」を経て、1998年友人3人で二子玉川に「ビストロV.S」をオープンするがメンバー解散。2003年店名を「ヴィエス」に変え一人で再スタート、現在に至る。運命を変えたある人物との出会い
人との出会いが人生を大きく左右するというが、高橋氏もその一人。地元の高校を卒業後、予備校に通うため上京するも雰囲気に馴染めず一ヶ月で挫折、賄い付きという理由で始めた飲食店のアルバイトで生活する日々。
22歳の時「これで飲食店は最後しよう」と決意し求人情報で偶然みつけた青山「ザ・ハウス・オブ1999ロアラブッシュ」で働く。ここである人物と出会うことになる。
低賃金、12時間労働という過酷な日々、更衣室で肩を落としていた氏にある男性が声をかけた。
「ワインでも飲むか?」
差し出されたグラスのワインを一口飲んだ若者に、
「どうだ美味いか?」と、その上司らしき男性は嬉しそうに訊ねたという。
その数日後、店の新しいパンフレットが出来上がり、今度迎える新ソムリエの写真を見て愕然とする。それは先日ワインを薦めてくれた人で、“1985年度日本最高ソムリエ・木村 克己”と書かれてあった。
「しかもあの時飲ませてくれたのは“81年ドメーヌ・デュジャック モレ・サン・ドニ”だったそうで、あとで気まずい思いをしました(笑)
木村さんは高級ワインであろうが、ただ純粋にワインを楽しむ喜びを教えてくれたんです」
その出来事を機にソムリエを決心する。
数々の出会いと経験で育まれた実力
その後「西洋割烹 車屋」でソムリエ見習いを2年半、その後「ピアション」で2年経験を積んだ後、「フェアーモントホテル」で支配人としてバー、レストランなどを統括。その頃同時に日本酒学講師として「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)」設立発起人・右田 圭司氏らの誘いで日本酒の普及活動にも精を出す。また、飲食店舗開発のアドバイザーとしてのオファーもあり、地位・待遇面で非常に恵まれた環境にいた氏だが、好きなことをやりたいという思いが捨てきれず、“独立”を意識し始める。
六本木の伝説のワインバー「きつねや」が「エスペランス」に移転オープンすることになり、オーナー成田 忠明氏から誘いを受ける。知る人ぞ知るこの「エスペランス」とは、一級の食材と豊富なオールド・ヴィンテージ・ワインに定評のある隠れた名店。
「谷口さんもそうでしたが、成田さんも強烈なキャラの持ち主でした。本当に厳しい方だったので、それまでお山の大将できた僕は何度もぶっ飛ばしてやる!と思ってましたよ(笑)」
だが成田氏の天才ぶりを目の当たりにするたびにやる気が奮い立ったという。
例えば“仕入れ”。業者が困っていれば無駄金を捨てることも怖がってはいけない。売りに来るのは買ってほしいから。そんな時こそまとめて買ってやれば、後々良い話は一番に持ちかけてくれるのだと教わる。
「仕入れはバクチなんです。成田さんから学んだことで、今こうして小さな店の少ロットの仕入れもやれてますからね」
念願の独立、試行錯誤の共同経営を経て
いよいよ夢だった独立を実現させる時が来た。3人の共同経営である。金のない3人が出し合った開店資金は850万円。
家賃は決して安くはないが、物件を見て回り全員が気に入った二子玉川の居抜き物件に決めた。
華やかな二子玉川駅前大通りから一本路地を入った交差点の角に位置するここは、小さいながらも3階とは思えない開放感がある。
“V=Vin”と“S=Sake”を表す「V.S」を店名に1998年オープンに漕ぎ着ける。
まずは主婦層の集客のためと、今では考えられないお得なランチを騙し騙し提供し続けた。当然回転は見込めず5年で解散を余儀なくされる。
3人のうちの名義人である友人から、
「名義は変えないが金も要らない、良かったら続けてくれないか」と持ちかけられた氏は悩んだ末、成田氏に相談に行く。
すると、
「どうせ我がままなお前の性格だ。一人の方がむしろ好きなことを自分勝手にやれるんじゃないか」
ワイン&サービスを主にこれまでやってきたが、料理もそこらのコックには負けないという自信もあった。
“ワインのつまみなら出来るかも…。一人なので下準備が可能な煮込み料理を中心に豪快に出す店なら。アレを食べに行こう思わせるインパクトのある料理を出そう!”
たとえばこちら「蝦夷鹿の首肉の煮込み ラズベリー風赤ワイン トリュフソース」
ほど良く煮込んだ肉の旨みにトリュフの風味。ラズベリービネガー&蜂蜜の甘酸っぱいソースが優しく引き立てる。私ならこれだけでボトルワイン半分は飲めそう。
この写真を見て思わずナイフを入れたくなったら、それはシェフの狙いどおり。ここでいただけるのは「崩すのがもったいない」ではなく「崩したくなる料理」なのだから。
こちらの「カスレ」も同様に食欲を掻き立てる逸品
具材は、白インゲン豆、シャラン産鴨のコンフィ、鹿の腸詰、南昌豚のバラ肉塩漬け、ハモンセラーノ。玉ねぎと人参のピクルス入り子羊のスープが、具材の肉汁と実に合う。またこれでボトル半分飲めてしまいそう。
ワインは手酌でも納得のいく上限6,300円まで価格を抑えた。店名「V.S.」を「ヴィエス」と読ませ、壁の赤を効かせポップなインテリアに衣替えし、2003年「ビストロ ヴィエス」がオープンした。
自慢は肉料理だけではない。秩父にいる義姉が作ってくれた有機野菜に敬意を払い丁寧に調理された野菜メニューも並ぶ。
こちらはこの店の人気メニュー「美味しいトマトのピクルス」。シェフのセンスが凝縮されたこの球体、一口かじると極甘の果汁がほとばしる。
レシピはマル秘とこのこと、まさに“禁断の果実”。
さらにさらに、運が良ければ裏メニュー「トリュフの炊き込みご飯」に出会えることも。トリュフの官能的な‘香り’、そして隠し味のシェリーが生む‘照り’と‘コク’が三味一体となって脳天を直撃する。卵の黄身でテンションが上がり、またしても罠にはめられてしまう。
ワインは修行時代から長い付き合いのあるフランス人のインポーター・セルジュ氏が、現地に直接買い付けたワインを取り揃える。
「自分の行きたい店を作ったんです。肉料理とパンをつまみながらボトルワインをゆっくり楽しみ5千円でおつりがくる店。そのせいか目的意識が明確なお客さんが多いんです。ハマる人はハマるみたいですよ。店は100点か0点じゃないと駄目です」
と言い切る高橋氏。
その時食べたいものをちゃんとアピールして上手に店を使ってもらいたいのだと。
取材中にも時折見せた氏の挑戦的な物言いも、やがて心地良く感じるのは、お客の時間を預かる者の責任感が伝わるからなのだ。
18席の料理、サービスをたった一人で切り盛りすることへの不安はやがて自信へと変わっていった。
家族で楽しめるレストラン
夏休みなどに行っているという「チビッ子料理教室」について尋ねてみた。
「仕事が忙しくてどこにも連れて行ってやれない娘に教えたことが始まりです。お友達も誘っていいよと言うとどんどん噂が広まって。でも怪我すると責任重大なので懇意にさせてもらっている常連の方のみですが」
一時間で2品作り、お母さんに食べさせてあげる一日シェフ体験のほか、男の料理教室も行っているという。
ちょうど取材中お子さんが以前通ってた保育園の先生から予約の電話が入り、なぜかほのぼのした気持ちになる。
クリスマスのような特別な日にも常連客で埋まり、高校生の息子さんも手伝いに来てくれたと嬉しそうに語る高橋氏。
だが子供は「食育」以前に、挨拶や礼儀作法など学ぶべきことがたくさんあると語る。
高橋さんの夢は?の質問に、
「店も軌道に乗ったし、本当に自分のやりたかった究極形の“ビストロTAKA”という店をやりたいですね。店名ロゴに小さな“様”を隠したりして(笑)
そんな遊び心をいつまでも持っていたいんです」
「ビストロTAKA様」になっても心身と懐に温かいビストロでありますように。

東京都世田谷区玉川3-10-8 アークビル植3F
03-3707-4301
12:00〜(L.O.14:00)
18:00〜(L.O.22:00)
18席 月曜休み
〜 筆者プロフィール 〜
吉田 ゆり
特集記事担当ライター
(社)日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート
大阪生まれ。大阪・京都を食べ歩き燃え上がった“食人魂(しょくにんだましい)”は、数年前東京に移り住みさらにヒートアップ。ワインの守護神「サン・ヴァンサン」と誕生日が同じことから、本人は化身であると信じて疑わず、“布教活動”と称し一人で食べ歩く日々を送る。目標一日3軒。
好評!「恵比寿時々中目黒ところにより港区」でブロガーデビュー。
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