編集長のつぶやき

【VOICE FROM EDITOR】2006-10-26

レストランはフィクションか、ノンフィクションか?

レストランはフィクションか、ノンフィクションか?

出版の世界には「フィクション」と「ノンフィクション」というジャンル分けがある。レストランはどうか? 最近流行る“朝礼ブーム”“表彰ブーム”に思うのは、フィクションの“魔力”である。

レストランビジネスにおいて、「テーマ」や「コンセプト」が非常に重要な時代になってきた。言い換えれば、顧客をサプライズさせ、ディライトさせるためのシナリオ作りに成功した店が勝っているのである。まさに「フィクションの時代」である。個性的な店のネーミング、コンセプトを表現するショルダーキャッチコピー、そして魅力的なメニューブックやホームページ製作。レストランはシナリオライター、コピーライターたちが活躍する“ギョーカイ”になってきたのである。

しかし、それはあくまでSI(ショップアイデンティティ)やプロモーションのための演出であって、食材、調理手法、サービスなどレストランの本質的要素ににおいては、「ノンフィクション」でなければならい。にもかかわらず、ノンフィクションであるべき料理やサービスが「フィクション」としか思われない“本末転倒”の店が登場してきており、それが人気化しているのは不思議な現象である。例えば、朝礼で有名な渋谷の居酒屋。本来、顧客のためにあるべきサービスが「業界向けプレゼンテーション」の道具として完全にフィクション化している。

いま、私が注目している飲食トレンドである「地方活性化」についても、地方食材や地方の名店ブランドを東京マーケットにもって来て「繁盛店」に仕上げるのは簡単ではない。最近の失敗例で多いのは、情報発信しやすい銀座や六本木で高い家賃を払って物件を借り、豪華な内装費をかけて“デザイナーズ・レストラン”を出店するケース。自分たちのブランドを過信し、数億円を投資しても簡単に回収できると思い込んでいる。そういうプロジェクトには、メジャーなコンサルタントや広告代理店が絡んでいる場合が多いのだが、オープン人気はあっても半年も経たず「こんなハズじゃなかった」と赤字に苦しむことになる。結果、コンサルタントや不動産ブローカーの餌食にされていたことに気づくのである。

地方ではどんなに有名であっても、東京で勝つにはマーケットを知り尽くし、トレンドを仕掛けることができる運営力のあるプロフェッショナルと組むことが必要だろう。私はそのケーススタディとして、「食による地方活性化」を企業理念に取り入れ、それを核にアクセルを踏み出した“マネーの虎”こと安田久氏の仕事に興味をもっている。かつてはアルカトラズを始めとしたテーマレストランというフィクションの世界で名を上げたが、いまやノンフィクションの手法で次々に新規の地方ブランド、ローカルコンテンツを東京に持ち込んできている。「なまはげ」「きりたんぽ」(秋田)「黒薩摩」(鹿児島)「あまくさ」(熊本)などだ。

そして、今年12月には、やはり彼の出身県の秋田ブランドではあるが、300年の歴史と文化を有する「稲庭うどん」の本家本元、「七代 佐藤養助」の東京出店を託された。1号店は銀座6丁目である。「佐藤養助」の現当主、佐藤養助商店代表取締役社長の佐藤正明氏は言う。「秋田を愛し、銀座に詳しく、レストランの顧客心理を知り尽くした安田さんと組むことがベストの選択だった。“マジ”ですよ」。すでに20年前から銀座に稲庭うどんの暖簾を出した「寛文五年堂」がある。しかし、秋田稲庭を訪ねて見れば一目瞭然だが、佐藤養助が本流であり他を圧倒しているのは間違いない。

重要なミッションを託された安田氏は「わが社にとっても、私にとっても特別な思いと意味がある」と語る。フィクションからノンフィクションの世界に舵をきった安田氏の分水嶺になるプロジェクトであると言えるだろう。店舗デザイナーが関西でいま新鋭のトップランナーとして脚光を浴びるカームデザインの金澤拓也氏であることも興味深い。安田氏が“マネーの虎”から“地方ブランドの請負人”として再デビューを果たす、12月14日のオープンが今から楽しみだ。

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【筆者プロフィール】

(佐藤  こうぞう)
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として取り上げられる。


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【VOICE FROM EDITOR】2006-10-19

恵比寿・立ち飲み“最終戦争”

恵比寿・立ち飲み“最終戦争”

「そろそろ立ち飲みも終わりだろう」と業界人が囁き始めたタイミングで、“立ち飲み激戦地”恵比寿に「かまくら」などを展開するリン・クルーが参入、「恵比寿スタンド VIVA[ビバ]」をオープンする。

「エッ!」という驚きとともに、「今後、立ち飲みはどうなっていくのか」と新たな興味が膨らんだ。そこで居ても立ってもいられず、銀座のリン・クルー本社に林直樹社長を訪ねて率直に聞いた。「今ごろ何故ですか?」。林さんは淡々とこう言った。「去年の夏ごろから立ち飲みをやりたい、やりたいと思っていたんですが、いい物件がなかったのです。やっと見つかって…。(参入の)タイミングはあまり関係なく、僕のやりたいイメージの店をどうしてもつくってみたかったんです」。

もともと林さんは、本人は意識していないかもしれないが、スロースターターである。沖縄、もつ鍋業態も、トレンドが後半期に入ってから参入している。彼にとっては、同業態の店をリサーチし、「まだどこもやっていない手法」をひっさげておっとり刀で登場する。今回の立ち飲みもそうだが、環境は「Q」を、フードは「buri」を意識したようだ。六本木のディスコから飲食業界に入った林さんは、いまだにあの時代のバーラウンジで過ごした記憶が体の芯に残っている。「Q」に入ったとき、その記憶が甦った。一方、和食屋でいろいろな料理をやってきた探求心が、「buri」を覗いたとき頭をもたげてきたのだろう。

私は、林さんが「敢えて今だからこそ」と、何か深い狙いがあるのかなと期待を込めていたので、ちょっと肩透かしをくらった。そして、「この人がトレンドの“トリ”をとるのかな」とふと思った。「恵比寿に立ち飲みは、もういいだろう」とも思った。そんなタイミングで、今回の“恵比寿立ち飲み戦争”の仕掛け人ともいえる「立呑」「18番」の松下義晴(ピューターズ社長)さんが、今度はビールとピザの店「17番」をオープンするという話が飛び込んできた。松下さんも「もう立ち飲みはいいよ」と思っていたに違いない。そもそも「立呑」にしたって、再開発で立ち退き前提の5年定期借地で借りた物件を活かすために「立ちでもやろうか」と思いついたのが動機だった。それが、バーやカフェ、普通のレストランに飽きていた客の心をつかんでブレイクしてしまったのだ。

いまや立ち飲みといっても、ベタな和からスタイリッシュな洋まで、さまざまなスタイルが登場し、「業態」というより「概念」になった。椅子を置いている店も多くなった。ハイヒールの女性客にとっては、長い時間の立ちはキツイ。そうした女性客を逃さないために、椅子を置く、カウンターを広くとって肘をついて上半身をもたせ掛けられる設計をする。軽く腰をかけられるスツールを設置する。環境面でも進化している。「18番」も女性客を逃したくないと思った松下さんが「じゃ、椅子を置けばいいじゃない」と決めたところからブレイクを始めたのである。

昨日、恵比寿の立ち飲み屋を、ぐるっと一周回ってきた。スタートは鉄板焼きと辛味ホルモンの「マンギン」。原型はAWキッチンの渡辺明さんが創った。「18番」は相変わらず外まで客があふれていた。恵比寿銀座を駅の方向へ。「立呑」も盛況。その前の「プレハブ酒場」も外にビールケースを積んで即席立ち飲み営業。ジュリーフィッシュ・貞廣一監さんの「バリ鳥」もいっぱい。中目黒店がブレイクし、こちらが先なのに中目族は「恵比寿にも出来たんだ」と言っているとか。駒沢通りを渡って「タパチョス」。ここも常連がついている。「buri」。通りからみると絵になるのがいい。西口五差路から商店街を駅へ。オープン直前の工事中「恵比寿スタンド VIVA」を過ぎるとイケメンバル「ガポス」。人気が続くか。

駅のガードをくぐって東口に。実は「立呑」(2003年12月)より前に、密かに人気を呼んでいた「ウーピー」。オープンは2003年5月。この店のファンも多い。店が入っているエビスストアビルは古い。隣のビルは年内に立て壊しされるが、このビルも時間の問題だろう。数年後にはいまのままの「ウーピー」も「立呑」も消える。東口五差路を越えれば「Q」の看板。立ち飲みを大人の隠れ家に変えたこの店の客層はラグジュアリー“雑誌”的だ。運営は「マンギン」と同じデュアルウエーブ。「Q」のコンセプトは我が家のようなサービス。恵比寿の立ち飲みは、客それぞれが「我が店」をもっていることで成り立っているのかもしれない。恵比寿・立ち飲み“最終戦争”は客の棲み分けによって終結を迎えそうだ。

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【筆者プロフィール】

(佐藤  こうぞう)
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として取り上げられる。

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【VOICE FROM EDITOR】2006-10-12

2007年の飲食トレンドを読むキーワード(1)

2007年の飲食トレンドを読むキーワード(1)

最近、「飲食トレンド」について取材を受けたり、ビジネストレンドをテーマとした講演の講師に呼ばれることが多い。この時期になると、業界人の関心は「来年は何が来るのか?」に集まるからだろう。

11月15日にも、テンポスパスターズ主催のセミナーで、「飲食店トレンドを読み抜く」というテーマで話をする。その講演レジュメの下書きとして、いま筆者が考えているトレンドについて少しまとめてみよう。キーワードとして頭の中を駆け巡っているのが次の四つ。「新ベタコテ」「地方活性化」「大人の社交場」「健美長寿」である。昨年の今頃、『月刊店舗』誌上で発表した「2006年の注目コンセプトと新業態」とベースはそれほど変わってはいないのだが、“キャラ立ち”とでも言うのか、大手、中小、個人に関わらず実に店が個性化してきたといえる。

まずは「新ベタコテ」。昨年は、「ベタおしゃれ市場」が活性化した。その主役になったのが恵比寿「buri」などの立ち飲みブームをはじめ、もつ鍋、関西系粉もの、鉄板焼き、スペインバル、和韓料理などである。今年に入って、これらの業態が進化、個性の極めて強い「キャラベタ」「キャラコテ」が現れてきた。とくに「火元料理、客前提供」の鍋と鉄板の進化は激しく、様々な業態が登場した。中目黒の「ハレノヒ」のコラーゲン鍋、とうがらし料理「赤ちり亭」などがブレイク、鉄板も「kirara風月」「銀もん」などが人気となったが、来年もこの“変わり鍋”“くずし鉄板”のブームは続くだろう。

それに炭火系でいえば「ホルモンは強し」である。恵比寿「焼肉チャンピョン」のスタイルで各部位を提供、モクモクした空間ですべてのホルモンを食べ尽くす“元気系”は根強い人気だ。新宿歌舞伎町に現れた「スタミナホルモン 東京はなけん」などはその典型だろう。さらに、急ブレイクしているのが「漁師料理」。発信源は門前仲町の「山憲」だが、トロ函や平ケース、大漁旗を店頭にディスプレイし、鮮魚をワイルドに七輪で炙って食べさせる店が増えている。また、このコラムでも紹介した茅場町「和光」の貝づくしの店も現れてきたようだ。最近オープンした神田「丸富水産」、乃木坂「魚真」などが参考になろう。

「地方活性化」については、すでに“マネーの虎”ことHYジャパンの安田久氏が仕掛けているが、おそらく2007年の最大のトレンドになるかもしれない。筆者は昨年来“新郷土料理”が新しいトレンドとして注目されると言い続けていたが、それが現実になり始めたわけだ。10月10日、銀座に相次いで地方発を売りにする飲食店がオープンした。一つは北海道の十勝産食材を提供する「お取り寄せダイニング 十勝屋」。経営は十勝毎日新聞社と北海道ホテルが共同出資した子会社のグリーンストーリー(北海道帯広市、代表取締役・林浩史氏)。

背景には大手商社系飲食支援会社や有名コンサルタントが関わっているらしいが、その力だろうか、200社近い申し込みがあったといわれるコリドー街の好立地に物件を取得、“情報発信基地”としては最高のスタートを切ったと言えるだろう。一方、モックが運営する「フードアパートメント日比谷」の7・8階には、石川県の郷土料理をコンセプトとする「金沢近江町市場 らくまつ」がオープンした。地元石川県の協力によって、地の物の食材仕入れルートを確保したという。

こうした「地方コンテンツの東京進出」が飲食の新しいビジネスモデルになりつつあるわけだが、懸念されるのは食材流通や観光化などビジネスに走るあまり飲食の本質(まず顧客ありき!)から外れてしまうことだ。通販、物流業者の仕掛け、サプライサイドの論理が勝ちすぎると、顧客心理は冷めてしまう。“地方発”を真剣に考えるならば、その地方の食材のみならず、歴史や伝統、習俗まで研究し、新しい文化として育てる覚悟がなければ長続きしないだろう。ジンギスカンのように、一時的にブームにはなっても、ニュージーランドの牧場の羊までが枯渇するような状況になると、本末転倒というしかあるまい。
(つづく)

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【筆者プロフィール】

(佐藤  こうぞう)
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として取り上げられる。

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【VOICE FROM EDITOR】2006-10-05

「ラゾーナ川崎プラザ」と「アーバンドックららぽーと豊洲」

「ラゾーナ川崎プラザ」と「アーバンドックららぽーと豊洲」

9月28日の「ラゾーナ川崎プラザ」に続き、今日10月5日に豊洲に「アーバンドックららぽーと豊洲」がオープンする。2週連続の三井不動産によるニュータウン型巨大商業施設の開業である。

両方の施設内飲食ゾーンを歩いてみて、率直に感じたことを記そう。「ラゾーナ川崎プラザ」は駅と直結するだけあって、地域密着型の日常使いの業態と外からの客も狙った非日常志向のレストランがバランス良く配置されていた。“非日常”型が「南国酒家」とグレース六本木にも出店したルビーカフェグループ(株式会社フェアネスクリエーション)の「RISTORANTE RUBY Sopraffino」というのが少し物足りない。しかし、その代わりに“日常”でも“非日常”でも使える4階広場側に面したゲタ履きの飲食店群が面白い。

中央に向き合う形で並ぶスティルフーズの新業態「鉄板焼S」とダイヤモンドダイニングの新業態(新規出店は常に新業態だが)の「ベルギービール&カフェ Patrasche」が見所、行き所、旬の業態である。それらと両側に並ぶのが「柿安 三尺三寸箸」「Tasty Thai Dining ティーヌーン」「妻家房」「ろくまる 五元豚」「波照間」のオーガニックバイキング、タイ料理、韓国家庭料理、豚しゃぶ、沖縄料理のいまではお馴染みになった“トレンドアウト”(トレンドとして成長後半期にある業態=筆者命名)。できれば“トレンドイン”(成長前半期)の業態をもってきて欲しかった。

一方、「アーバンドックららぽーと豊洲」はどうか。はっきり言って、こちらは湾岸新住民(団塊ジュニア・ニューファミリー層)を狙ったコンセプトが明確だ。住友の晴海トリトンが“ノーキッズ”のDINKSを狙いすぎて外したのと対照的に、あるいはお台場のアクアシティ、デックス、ヴィーナスフォートなどの観光目当ての空洞化リスク(土日はいいが平日最悪)をヘッジしたかなり計算されたMDではないかと感じた。要は、“巨大な新ファミレス&新ファーストフード”の集積である。もちろん「キッザニア」に代表される、教育問題という現代の政治的社会的課題解決をディズニーランド的切り口で提案する“子供目線”のMDは言うに及ばす、すべてがエンタメ性を含んだ「新しいFR、FF」である。

そのコンセプトずばりの店がダイヤモンドダイニングの「ファミレスキャンディ」である。WDI出身の住谷栄之資氏が手がけた「キッザ二ア」の前にはWDIのババ・ガンプがあるのも分かりやすいが、マルハレストランプロデュースのフードコート「フードサーカス」は意外性があった。ただ環境と料理・サービスがマッチングできるのか見守りたい。明らかにクリエイトレストランツのベンチマーク店である。三井には出にくいクリエイツの岡本社長は苦虫を噛み潰しているに違いない。すかいらーくグループの新業態「グランブッフェハワイアンアイランド」は柿安の「八尺八寸箸」のハワイアン版、まさに進化したファミレスと言えないだろうか。ほかに、目を引いたのは豊田の「豊洲漁港 寿し常 市場内店」。今流行りの「魚屋スタイル」だが、これも質が伴っていない。でも、子供たちには新鮮な体験だろう。“新しい回転寿司”とでも言おうか。

その他、トレンドインの「鉄板ダイニング Kirara 風月」はワインや日本酒とのマッチングを提案しているし、グッドコックの「餃子の福包」、いま旬の「韓国スンドゥブ ポジャンマチャ」も面白い。ちょっとがっかりは際コーポレーションの2店舗。すでに最新の商業施設に出店すべき業態開発テーマがあると言えるのだろうか。いずれにしても、川崎、豊洲のライフスタイル提案型開発の三井不動産に対して、来年ラッシュを迎える三菱地所がラグジュアリースタイル提案型開発でどう対抗するのか、この巨頭の戦いも見ものである。

「ラゾーナ川崎プラザ」

「アーバンドックららぽーと豊洲」

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【筆者プロフィール】

(佐藤  こうぞう)
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として取り上げられる。

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