編集長のつぶやき
いま「手作りビール」が面白い!

地ビールが解禁されたのが1995年。その勃興ブームとサバイバル競争が一巡し、再び盛り上がりの兆しが出てきた。加えてベルギービールを始めとするヨーロピアンビアブームが台頭、今年の夏は「一味違うビール」がブレイクしそうだ。
7月初旬、天王洲アイルにユニマットキャラバンがオープンしたヨーロピアンビアテラス「SPIBBLE(スパイブル)」。ベルギーを中心としたヨーロッパビールが楽しめる。ベルギー中心にドイツ、イギリスなど50種のボトルビールと日本初となるドラフトタワー(ゴールデンゲート・イタリア製)を装備。常時9種の輸入樽生ビールが楽しめる。9月にはあのダイヤモンドダイニングが川崎に出来る新商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」にベルギービアレストランをオープンする。
日本の「クラフト(手作り)ビール」の提供者たちも元気だ。マニアの殻を破り、もっと幅広く普及させようと「グッドビアクラブ」なる消費者団体も誕生した。今年は設立3年目になるが、このクラブが火をつけた「リアルエール」(イギリスの伝統的な手法で作られた樽生)は確実にマーケットに浸透しつつある。
TVドラマ「下北サンデーズ」のスタートで盛り上がる下北沢の本多劇場近くに3月オープンしたBeer-bar「USHI-TORA」。オーナーの吉田伸右さんは、西荻窪で「Manna」という洋酒バーをやっていたが、クラフトビールに目を付けて転身、下北にビアバーを開いたのだ。「洋酒やワインより簡単で面白そうだったから」と吉田さんは転身の理由を語るが、実際にビールの世界に入ってみると、その奥の深さに驚いている。エールビールを中心に20種類の樽生(タップ)と3台のハンドポンプを提供している。ハンドポンプを操作しながら、「この感触がいいんですよ…」と嬉しそうだ。
吉田さんによると、クラフトビールの世界には3者の「先達」がいるという。その先輩達は吉田さんのような若手新参者が戸を叩くと、快く迎え入れて「技術と情熱」を吹き込んでくれるという。3者とは、両国「ポパイ」店主の青木辰男さん、「よなよなエール」ブランドで知られるヤッホーブルーイングの石井敏之さん、そして2000年に沼津で生まれた「ベアードビール」のベアードブルーイングカンパニー創業者夫妻。9月17日には彼ら業界の先達が一同に会する「Nippon Craftbeer Festival 2006」(すみだリバーサイドホール)で開催される。こうしたムーブメントの中から、ヨーロピアンビアパブでもなく、ベルギービール専門店でもない、日本発の「クラフトビアバル」といった新業態が生まれるかもしれない。
マスメディアは大手ビール4社の横並び新商品開発競争を“ビール戦争”として面白がって取り上げるが、こうした“インディーズビア戦争”こそビール文化底上げにつながるのではないか。
【筆者プロフィール】
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。
「居酒屋」が“復活”する理由

男たちにとって、再び住みにくい世の中になってきた。サラリーマンは勝ち負けの結論を迫られ、我が世の春を謳歌してきた役人も肩身が狭い。家に帰っても女房子供が先で自分の休まる居場所はない。「居酒屋」はそんな男たちのとりあえず帰る止まり木である。
「居酒屋」が“復活”している。それは世の中が暗いからだ。小泉政権は見事に「自由と自己責任」の光と影を照射してくれた。光の部分の曖昧さ、いかがわしさに比べて、影の部分のなんと残酷で悲惨なことだ! 最近のマスメディアで報告される事件はことごとく格差社会の闇の部分が露呈されたものである。しかも、それは氷山の一角だ。日本と日本人は確実に「影の沼」に足を取られて首まで泥に埋まろうとしている。
ある意味、政治も会社も家庭も信じられないアナーキーな世相に置かれている、それが2006年夏の現実である。そういう時は「居酒屋」が流行る。なぜなら、男たちは「これではいけない」と同志を募って会議をする。酒が必要だ。「俺は会社を変えてやる」「みんな、一緒について来い」と勝鬨を挙げながら居酒屋に向かうのだ。それだけではない。「居酒屋」は情報交換の場でもある。幕末の京都、それがこのカタストロフィーの時代の「居酒屋の風景」かもしれない。
田町に「北の酒蔵 駒八」という居酒屋がある。北海道・室蘭出身の創業者、八百坂仁さんは高円寺から田町に本店を移して23年になる。今では「酒蔵 駒八」を7店舗、立ち飲みや鮨屋など他業態や屋号の違う居酒屋を10店舗展開している。そのほどんどが田町駅周辺に集中している。いまだに「駒八本店」に立つ八百坂さんは、常連客から「おやじ」と慕われている。駒八の真髄は八百坂さん自身が筆をとった「酒は歴史とロマンを創る」にある。駒八にも没落した大手スーパーの創業者や居酒屋チェーンで上場した起業家たち、そして政治家や官僚も通い詰めた。
そんな多彩な客が通り過ぎて行った居酒屋の名店を率いる八百坂さんが、立ち飲み屋に付けた店名が「二合半」。「立って半畳、寝て一畳、天下取っても二合半」ということわざから引用したという。人間はどんなに成功しても身の丈に合った行動しか出来ないという意味だ。「山高ければ谷深し」「満つれば欠くる」ともいう。居酒屋は人生の道場である。八百坂さんのような「居酒屋の原点」とも言える人は他に誰がいるのか。大手チェーン店の社長で現場に立っている人が何人いるだろうか。若手オーナーたちも居酒屋甲子園活動に浮かれて現場を忘れていないだろうか。「居酒屋」は歴史とロマンを創るのだ。
「素材」「ロハス」ブームの“危険な罠”

新コンセプトの飲食店オープンを追いかけていると、「こだわり食材」「生産者の顔」「ロハス」といった流行語が飛びかっている。確かに、マスを相手にするファミレスも居酒屋チェーンも、いまや「食材」のルーツや美容健康効果が売りになっている。日本全国、「こだわりの素材」こそが差別化の切り口になっている。しかし、その世界には自己矛盾がある。希少なモノを追えば追うほど、コストアップ、少量化というプロブレムに突き当たらざるを得ない。
結局、このアプローチを続けていくと、必ず破綻が待っている、ような気がする。ブランド豚や銘柄鶏にしても、それを追い続けることが自然の摂理に合致しているのか、疑問である。有機野菜、無農薬野菜と言われても食べるときにその真贋を検証することは不可能に近い。初期には荒削りだが優れたプロデュース力があった「キヨズ・キッチン」も、結局、麻布十番で「アンチエイジング」のコンセプトレストランを作ってみたものの、マーケティング屋の「仮説・検証」の対象にされて失敗した。理論と商売は別次元なのだ。
筆者は「素材主義」を否定しているわけではない。現実には、オンリーワンを極めようとすればそのアプローチはより細分化していくだろう。例えば、魚の世界。権威ある料理雑誌や鉄人系料理人の世界では「魚は天然物」が優位になる。「養殖物」はあたかもマガイ物扱いされる。しかし、フードビジネスのプロフェッショナルの世界では「養殖物こそブランド」と言われる世界がある。六本木にオープンした宇和島の水産養殖用飼料を開発してきたダイニチがアンテナショップとして開店した「U-WA 六本木」は、宇和島発のブランド鯛を素材にあえてイタリアンベースでワインとのマリアージュをコンセプトにする。結果として、「養殖の鯛が一番旨いのだ」とわかってもらえばいい。素材=天然という先入観への挑戦でもある。
UCCグループ系列で、銀シャリと一夜干し炭火焼の「一夜一夜」という業態がある。丸ビル店と銀座店がある。この春から銀座店の店長となった神田岳史さんは、ランチの活性化をするために銀座のOL向けのMDを考えた。それが「日本一の健康昼ごはん」。究極の銀シャリと健康を考えた9種類のおかず(味噌汁、漬物)で1,000円という価格を打ち出した。神田さんは「ちゃんこ若DINING」をチェーン化した立役者。7月10日新メニュー開始以来、狙い通りに地元のOLさんたちが通ってくるようになった。コンセプトこそ「アンチエイジング」だが、それを思わせるコピーはどこにも出てこない。あくまで「OLさんにやさしいお昼ごはん」なのだ。「素材」「ロハス」といった流行り言葉を打ち出すことは“両刃の剣”である、それがプロの間では共通の認識になってきた。
店が放つ「オーラ」の正体とは?

勝っている店には必ず「オーラ」がある。それは店の外にまでハミ出し、通りを歩く客を店に導く不思議な力を秘めている。いったいその正体とは何なのか?
同じエリアの同じ通りにある店でも、客が溢れかえるところとガランとして客が寄りつかないところがある。その違いは何だろうか……と考えていたら、「オーラ」という単語が浮かんできた。人だって「オーラ」があればその回りに人が集まる。店もそうだ。最近増えているオープンエアの立ち飲み屋やバルを見れば、それは分かりやすい。店の前に出したワイン樽やビール・清酒ケースを使った即席テーブルまで客が埋め尽くす店にはオーラがある。逆に店の奥まで透けて見える店には客が寄り付かない。スタッフたちのやり場のなさそうな視線がさらに客を遠ざけてしまう。
では、その「オーラ」の正体とは何か? デザインだろうか、料理だろうか、スタッフの力だろうか? わずか9坪で月商550万円を売る池袋の元祖立ち飲み屋「かぶら屋」オーナーの菅野克弘さんは言う。「デザイン的要素は重要だが、スタッフが負けてしまうようなかっこよさや流行りを追うような内装は要らない。スタッフがいきいきと仕事を楽しめる環境、その舞台としての内装であることが重要だ」。スタッフがのびのびと役を演じれば、客はその店に溶け込むことができる。「店と客の一体感」こそが、オーラという目に見えないエネルギーをつくるのだ。
デザインコンセプトで言えば、「cool」すぎる店は失敗する。物販系やグラフィック系のデザイナーたちが初めて飲食店をやるときなどに犯すミスである。客はデザインを食べに来るわけではない。「warm」でなければ美味しい環境はつくれない。「かっこいいんだけど、温かい」。椅子とテーブルと照明。それだけで「warm」を演出することができる。昨日、同時にレセプションを開催した「マドラウンジ」「グレース六本木」のデザインを手掛けた森田恭通さんの仕事には、そのヒントが詰まっている。それにしても、そろそろポスト森田さんが出てこないことには……。





