編集長のつぶやき
“家賃破壊”が始まった…

「ついに」というか、「やっと」というか、飲食店舗物件賃貸家賃の相場が値崩れを起こし始めた。オフィス賃貸に比べ、閉鎖的な店舗物件流通の世界だけに、ある意味“タブー”な発言だが、あえて書く。
なぜならば、それは飲食プレーヤーにとって“千載一隅のチャンス”だからだ。店舗の家賃はこれまで、あまりにもサプライサイド、つまりディベロッパーやビルオーナー、不動産仲介業者、リーシングブローカー、サブリース業者の側に主導権があり過ぎた。とくに東京の都心部、中央区、港区、渋谷区では、坪家賃30,000円以上が当たり前、1階路面物件になると40,000〜60,000円という物件も少なくなかった。2003年、2007年の二度のレストランバブルを経て、まだ都心に大型商業施設開発余地があったうちはいいが、もはや残された物件は中小型ビルで、ちょうどファンドやリートなどの金融のしくみを導入した利回り目的、転売目的の新興不動産企業の成長ビジネスモデルの道具だった。これが9月の“リーマンショック”を機に、その道具は玩具でしかなかったことが明らかになった。彼らを支えていた外資や投資ファンドはマネー供給の蛇口を止め、はしごを降ろして去っていった。
もう、“砂上の楼閣”は崩壊した。そして“家賃崩壊”“店舗流通ビッグバン”が起きる。その兆候は現れている。大手ディベロッパーでさえ、都心のブランドの高い商業施設を坪20,000円前半、ところにより10,000円台でリーシングを始めている。新興不動産企業の新築商業ビルも、坪35,000〜40,000円を目論んで利回りを弾いていたが、その見直しを迫られ、「いくらで貸していいのかわからない」とリーシングスタンスの足元さえ揺らぎ始めた。その結果、「ビルは建てどもテナント決まらず」という、“新築ビル空洞化現象”があちこちで起きている。ただでさえオーバーストアー現象を引き起こしていた飲食店舗マーケットである。これはタダゴトではすまないだろう。こうした情報は、すでに業界筋の間では半ば常識で、水面下では貸し手と借り手の腹の探りあいや駆け引きが始まっている。そして、彼らの共通の関心事は「いったい適正相場をどのあたりで着地させるべきか」ということである。
私は常々、店舗家賃については、月坪売上げが30万円上げられる物件なら坪30,000円、20万円なら20,000円が適正ではないかと思う。つまり、対売上げ家賃比率10%である。あとはテナント側の努力で売上げがそれ以上いけばFLRコストのR(家賃)コストは8%にも7%にもなる。こう考えると、貸し手側も借り手側も、「この物件はいったい月坪売上げをどのくらいに想定すべきか」という問題設定をすべきであって、貸し手側が一方的に、あるいはビジネス上の事情で家賃を決めるのはおかしいのではないか、と思うのだ。両方がその物件についての価値を共有し、適正利益をシェアし、長くディールを続けることこそ重要なのではないか。
貸し手側が家賃を下げたくなければ、その物件の付加価値を上げるために、真剣にリーシングコンセプトを企画し、テナント選定の基準をマーケットオリエンテッドにシフトしなければダメだ。ディベロッパーや不動産仲介会社はもっと「マーケットの声」を聞くべきなのだ。“家賃崩壊”時代の到来は確実。物件のサプライサイドの大きな転換期がやってきたといえよう。テナント側もアクションを起こすべきだ。適正家賃に戻すために、既存の契約条件の変更やリスケジュールを迫ってもいいという環境がやってきたと言うのは、言い過ぎだろうか。
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【筆者プロフィール】
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。1997年の金融不祥事発覚の突破口となった「野村證券総会屋利益供与事件(元社員の手記)」をスクープした『月刊BOSS』(編集長代理)など、数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として、プロデュースした神楽坂「art et vin HAP(アール・エ・ヴァン ハプ)」が取り上げられる。





