編集長のつぶやき
「ありえないこと」に挑戦した三菱地所

4月27日開業の「新丸ビル」の飲食フロアはあまりに“ディープ”、そしてあまりに“ブレークスルー”。「スタンダード」と「ニュースターダード」とのアナーキーな融合だ。
「新丸ビル」の飲食テナントをつぶさに観て歩いた。ミッドタウンがちょっとカッコ付け過ぎで「使えるのは3〜4店かな」とがっかりしていただけに、“シンマル”(新丸ビルの略)は「丸ビルのような“お上りと接待ユース”とどう差別化したのか」という関心があった。銀座ベルビア館が「通だけど気障じゃない」とすれば、シンマルは「通が泣いて喜ぶ」テナントが揃ったと言える。
グルメ的視点からすれば、ピエール・ガニェールのカフェ&ワインバー「PGカフェ」(1階)、28歳で三ツ星を取ったイタリア・バドヴァの「イル カランドリーノ」、6階のワールドレストランの「四川豆花飯店」「サイアム ヘリテイジ」、そして5階に支店を出した“元祖系名店”の各テナント。沖縄「うりずん」をはじめ、おでん「こなから」、焼き鳥「萬鳥」、うなぎ「駒形」、酒亭「神田 新八」などが注目されるところだろう。琉球料理の「うりずん」や「こなから」は三菱地所側が頭を下げて口説き落とした“ありえなかった出店”である。
レストランビジネス的観点からすれば、それら“元祖系”とここ数年で人気を集めた“新顔系”が同じフロアで妍を競うというのが面白い。豚ブームをリードするとことんフーズの「とん風」。とことんフーズの豚で究極のもつ焼きを提供し、立ち飲みブームをつくった“い志井グループ”石井宏治「日本再生酒場」、野菜料理とモチモチ系パスタで見事復活を果たしたイートウォーク渡邉明「PASTA HOUSE AWキッチン」、軽井沢出身の蕎麦仕事人・川上庵の小山正「酢重ダイニング」、“イタリアンのバカナル”を目指すオライアン出身オーナー渡邉隆之氏の「デリツィオーゾ」、さらに地下1階には、知る人ぞ知る実力派のポトマック・金指光司「BARBARAマーケットプレイス」、マルチ職人・コラソンキッチン長岡謙太郎「Bistro Barダパウロ」など錚々たる顔が揃う。6階にオーストラリア料理「Salt」、ワールドワイン「w.w」を出したポート・ジャパン・パートナーズも注目株だ。ベルビア館にもニュージーランド「Arossa」を出したばかりの“業態輸入系ベンチャー”だ。
そして7階の「丸の内HOUSE」。“山本宇一氏プロデュース”は「だから何?」という感じだが、「オペレーションよりノリ」のクラブハウス“大人の社交場”というコンセプトといい、7階から東京駅や周辺のビル街を見渡せる“天空テラス”の環境といい、グッドコック・足立正行、テーブルビート・佐藤としひろ、フォーシーズ・松井件など“スノッブセッター”といい、役者は揃っている。ちゃっかりサービスの職人・ヒュージ新川義弘も一番いい場所に顔を出している。このフロアのコーディネーター、キリンビール・島田新一は「これまでの“テナント同士が戦い合う”のではなく、8軒が共存できるフロアをつくりたかった。テラス、廊下は共有スペース。SO TIRED と新川さんの店ではキャッシュオンでドリンクを頼め、それを持ちながら廊下を歩いてもテラスで飲んでもいい。廊下にDJブースを設けたのも初めてでしょう。8店舗の中で回遊、“バーホッピング”を楽しんでもらいたい」と話してくれた。
それにしても、よくここまで業界的に“濃い”顔ぶれを揃えたものだ。まさに「スタンダード」と「ニュースタンダード」、「過去」と「未来」が交差するテナントミックスになった。朝4時まで深夜営業する店が多いというのも新しい挑戦だ。トキアとの回遊が生まれ、“丸の内深夜族”の街が誕生する可能性もある。それは東京駅前というコアな磁場での新しい実験であると同時に“コンサバ”のイメージが強い丸の内からの脱皮現象でもあるかのようだ。そして、それはまた、テナントの力を武器に戦ってきた三菱地所若手新世代の“組織内革命”でもある。
【筆者プロフィール】
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。1997年の金融不祥事発覚の突破口となった「野村證券総会屋利益供与事件」をスクープした『月刊BOSS』(編集長代理)など、数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として、プロデュースした神楽坂「art et vin HAP(アール・エ・ヴァン ハプ)」が取り上げられる。




