編集長のつぶやき
居酒屋経営“宇野イズム”の復活!

「居抜き物件再生」を専門とする開業支援会社、株式会社上昇気流が注目を集めている。たまたま、新店リサーチをしていたら、このところ立て続けに“上昇気流銘柄”に行き当たった。
最近オープンした唾々・伊藤守さんの「串かつ男」(六本木)も、エイジアキッチン・吉崎英司さんの「三汁伍番」(三軒茶屋)も上昇気流の支援で開業した。「串かつ男」のオープン日、店を覗いたらたまたま隣の席に上昇気流社長の笹田隆さんが座っていた。この人がいま「居抜き物件再生」で業界に名乗りを上げた仕掛け人である。“あるべき姿”を目指すビジネスモデルではなく、“今のあり方”を認め、自然体で業態をつくり上げる飲食店開業請負人だ。“物件ありき”ではあるが、“利益優先”ではない。新規開業者に「個性と情熱とセンス、そして少しの野心」があれば、通常の開業に比べ初期投資を5分の1に抑えられる仕組み。造作譲渡金、保証金、開業費を5年間で償却していけばいい。ロイヤリティもないし、売上げを押さえられることもない。オーナーの人間性を最大限尊重した、ありそうでなかった“渋い”ビジネスモデルである。
笹田さんは元キッコーマン系の酒卸、家業の小網の社長をつとめていた。小網は三井物産系の三友食品と合併、それを機にフーズサプライサービスを設立して飲食店経営に転身。「びぃすとろ汁べゑ」(六本木)「桜ヶ丘椿堂」(渋谷)「獅子十六」(六本木)の直営3店舗を経営しながら、2004年10月に上昇気流を立ち上げた。会長には、居酒屋業界の重鎮にして、全国に多くの“弟子(居酒屋経営者)”をもつ“宇野道場”の主として知られる株式会社楽コーポレーション社長の宇野隆史さんが座る。現在、「くいものや楽」「汁べゑ」「チョップスティクカフェ汁べゑ」など国内に17店、海外はカナダに1店舗を展開。 オーナーの独立の夢とお客さんの喜びを両立させる“宇野イズム”の原点は「個性とそこそこの利益」。一貫してチェーン店型の飲食店ビジネスとは一線を画してきた。その宇野さんのDNAと笹田さんの情熱が上昇気流の核となっているのだ。
面白いのは、数字や科学では割り切れない「人間性」「個性」を重視したビジネスモデルに、最先端のベンチャーキャピタルが投資していること。上昇気流の取締役にも名を連ねる古我知史さんはウィルキャピタルマネジメントの社長である。同社は社会、人間の本質に戻り、「個性重視」のライフスタイル提案型ビジネスへの投資に特化している。マスマーケットの限界を指摘し、あえてファミリービジネス(モラルの高い同族経営)への回帰を提案している。そうした投資理念は飲食店経営の原点にも通じる。利益至上主義、利回り至上主義ではなく、「利益はあとからついてくる」といった発想である。上昇気流も「低投資でじっくりと繁盛店をつくれば、利益は後からついてくる」ビジネスモデル。先端の投資モデルと居酒屋の原点DNAとの“出会い”が飲食業界に新しい風を呼んだ。「三汁伍番」の吉崎さんは、「オープン日の開店時間最初のお客さんが宇野さんでした。嬉しかったです」と言う。吉崎さんも“宇野道場”の卒業生の一人である。
【筆者プロフィール】
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。1997年の金融不祥事発覚の突破口となった「野村證券総会屋利益供与事件」をスクープした『月刊BOSS』(編集長代理)など、数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として、プロデュースした神楽坂「art et vin HAP(アール・エ・ヴァン ハプ)」が取り上げられる。日本で初めて「レストランビジネス・ジャーナリズム」分野の開拓を目指す傍ら、飲食店プロデューサーとして「レストラントレンド」をテーマに講演・執筆を重ねている。





