編集長のつぶやき

【VOICE FROM EDITOR】2008-06-12

「恵比寿で店を出す」ということ

「恵比寿で店を出す」ということ

最近、「恵比寿がつまらないな」と思っていたら、久々に恵比寿らしい「あいびき」という店に出会った。戦後からあった山下マーケットが「恵比寿横丁」に生まれ変わったし、いま「恵比寿に店を出すこと」について考えてみた。

恵比寿は飲食店にとって一種の“業界デビュー”である。1号店が当れば、次のステップへの道が開けやすい。それだけ業界人が注目するエリアであり、“飲食スター誕生”の舞台といえる。“スチーム料理と美味しい酒”の「頂」から5年目、昨年秋、西口五差路近くに「あいびき」という“豚肉とソーセージ”の店をオープンしたロックハンズ。“「あいびき」で逢引きしましょう”というメッセージ。小さな店だが、オリジナルな料理とアットホームなもてなしにこだわる恵比寿らしい店が一つ増えた。

東口に戦後焼跡から生まれた「山下マーケット」の跡には、“魚屋系居酒屋”の仕掛け人、ネオサポートの浜倉好宣さんが、超ベタ系専門店系を13店舗集めた「恵比寿横丁」を5月30日にオープンさせた。昼は一部の店しか空いてないが、夜は横丁らしい空気感が出てきた。「テーマパークになったら恵比寿では難しい」といった意見もあるが、彼自身がブログで、「物の貸し借りや、出前、挨拶、という昔ながらの近所づきあいが自然になってきました」と書いているように、隣同士のつながりや人間くさいエピソードがこの横丁から出てくれば成功だろう。

フードゲートの村上宣史さん。村上さんは豆腐料理「空ノ庭」「板蕎麦香り家」「うどん山長」などを手掛けている。決してトレンドを追わず、日本食の原点であるごはん、蕎麦、うどん、豆腐といった業態をつくってきた。「長く続く店をつくること」が村上さんの基本だが、同時にどこか恵比寿らしいセンスが光る。細部にこだわったメニューの提供法、一味違う洗練さが漂う。「日常の日本食を非日常的な雰囲気で」という飲食の楽しさの追究を忘れていない。目立たないが、恵比寿に着実に根付いている。

恵比寿だけで楽しい韓国料理や関西系粉もの料理を6店舗展開するブルームの平古場伸さん。最近も恵比寿西口交差点の超好立地に「ボムの家」という韓国家庭料理ともつ鍋の店をオープン。昔、“個室ブーム”つくったメッドで「忍庭」を立ち上げた経験をもち、独立してから年に1店舗ずつ店を増やしてきた。「とにか、いい物件を取ること」に徹している。「ポムの家」の物件も、直接家主のところに何度も通い、口説き落としたという。成功するために妥協はしない。無駄な宣伝費をかけるよりも目立つ店名をつけ、どこにも負けない大きな看板を架ける。3店舗目の「だるまさんが焼いちゃった。」はいまやや恵比寿名物である。

恵比寿で勝つには、宣伝はいらない。ディープな客が多いから、「あの店は美味しくて面白い」という評判が立てば、またたくまに店は埋まる。しかし、それが続くには、しっかりした店づくりとオーナーのこだわりがなくてはならない。オーナー100%のエネルギーをかけて個性を注入しなければならない。「客がつくまで何もしない」余裕が必要だ。客が来ないからとあれこれ目先の対策をしていると、「やっぱりダメね」と見抜かれる。軸をブラしてはならないのだ。じわじわと常連がつけば勝ちだ。恵比寿で成功している店は、みんなドミナントである。客はオーナーのメッセージをくみ取り、ファンになる。だから、オーナーの顔が見えないチェーン店は難しい。

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【筆者プロフィール】

(佐藤  こうぞう)
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。1997年の金融不祥事発覚の突破口となった「野村證券総会屋利益供与事件(元社員の手記)」をスクープした『月刊BOSS』(編集長代理)など、数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として、プロデュースした神楽坂「art et vin HAP(アール・エ・ヴァン ハプ)」が取り上げられる。
日本で初めて「レストランビジネス・ジャーナリズム」分野の開拓を目指す傍ら、レストランビジネス・プロデューサーとして「レストラントレンド」をテーマに講演・執筆を重ねている。日本ショッピングセンター協会発行の『SC JAPAN TODAY』4月号より「食のマーケット&トレンド」を連載開始。
2007年5月、有限会社カシェットから「フードスタジアム」を分社独立、渋谷区代々木にフードスタジアム株式会社を設立。業界トップのWEBニュースとして、現在月間PV600,000を超える東京レレストラン&グルメニュース「フードスタジアム」の拡大、全国展開に乗り出す。『ARIgATT』の復刊も模索中。
佐藤こうぞうブログ「つぶやき編集長の『毒にも薬にも…』」も開始。“裏つぶやき”として話題に。

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