編集長のつぶやき
東京ミッドタウンの“聖”と“俗”

3月30日、いよいよ「東京ミッドタウン」がオープンする。飲食ゾーンを一回りしてみて感じたのは、ディベロッパーサイドの「情報発信」「話題喚起」への意欲と言うか、“下心”である。
そもそも勝手に“東京の中心街”と名付けられたミッドタウン。施設全体のコンセプトが「新しい価値、感性、才能を世界に発信する」こととあって、飲食テナントも“東京初”“日本初”の店や“食×アート”スタイル提案の店が厳選された。今回、テナント選別はかなり早くから決まっており、筆者が昨年の今頃問い合わせたときにはすでに「募集は終わっています」とシャットアウトされた。それだけディべロッパーサイド(三井不動産)が“銘柄選別”にこだわり、門戸を狭くしたのはなぜか。
その背景には、六本木ヒルズとの棲み分け、三菱地所グループとの“都心制覇最終戦争”への狼煙的な意味があるのはもちろん、西麻布、麻布十番、広尾、恵比寿、中目黒、青山など周辺の街場の店と使い分けができる“話題性”がどうしても必要だったのではないか。ただ有名ブランドだけを集めたのでは、丸ビルや六本木ヒルズにように“観光地化”してしまいかねない。それでは価値や感性は売れない。それが分かる大人、クリエーターたちが「使える街」でなければならないのだ。その点、どこの商業施設に行っても見かける“毎度お馴染み”の店は少ない。仮にあっても“旗艦店”を謳っている。
さらに、広大な敷地に比較して、一店一店のスペースが意外と狭い。スケール感があるのはソルトコンソーシアムのフードコート「okawari.jp」ぐらいで、レストランにいたってはこじんまりとした店がほとんど。ただ、奥の「ガーデンテラス」に出店したレストランには敷地の4割を贅沢に使った庭園が見渡せるテラス席がある。席数を抑え、ビューを含めた空間の価値を売るマジックである。庭側に入れなかった「可不可」は“食×アート”という付加価値を売るが、今いちピンと来なかった。話題性で言えば、4階のコンランプロデュース「Botanica」、ワンダーテーブル「Union Square Tokyo」、タリーズ社長の松田氏がナパバレーにワイナリーを持つ友人のフランシス・コッポラにプロデュースを依頼したという「COPPOLA'S vinoteca」、原宿「上ル下ル西入ル東入ル」のアト・ワンズ細川氏経営のモダンメキシカン「La Colina」などが“業界的に”注目されそう。
「名より実」を取ったのはゼットン・稲本健一氏の“シャンパンとオレンジの店”「オランジェ」である。六本木交差点から最も近いオフィス棟の角地に出店。「ゴージャスをカジュアルに使いこなす」というメッセージ性、大地真央と結婚したばかりの森田恭通氏デザインという話題性。「imoarai」「GRACE ROPPONGI」に続く森田氏の“Hopping zone”が出来たということか。ここが丸の内TOKIAの「P.C.M.」的な存在になるのは間違いない。「オランジェ」は朝5時まで営業だが、2階に入った空間プロデューサー・角章氏のバー「SALON BAR YOL」はなんと朝9時まで営業する。オフィス棟の1〜2階で朝までアルコールの臭いを通りに放つ大胆さ。安藤忠雄氏の建築物を眺めるガーデンテラスが“聖”だとすれば、ここはミッドタウンが提案する“俗”といえる。あるいは森田氏流に言えば“ツカミ”と“オチ”であろうか。26日の内覧会の夜の部。業界人たちがほとんど「オランジェ」に集まって閉会時間過ぎても帰らなかったシーンがそれを物語っている。
【筆者プロフィール】
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』編集者を経て独立。1997年の金融不祥事発覚の突破口となった「野村證券総会屋利益供与事件」をスクープした『月刊BOSS』(編集長代理)など、数々の雑誌創刊に関わった後、2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長をつとめる。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2002年10月、フジTVと提携し『MENUマガジン』を創刊、vol.3までエディトラルアドバイザー。2004年1月より「週刊フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、レストラン・フードビジネス専門のプロデュース&プロモーション会社の有限会社カシェットを運営。2004年 10月から日刊紙の「フジサンケイビジネスアイ」日曜版で「行列 のできる店 仕掛人」シリーズ連載執筆。その他、日本ショッピングセンター協会、東京商工会議所渋谷支部で「商業施設における魅力ある飲食テナント誘致」等のテーマで講演。『月刊店舗』2005年8月号から06年1月号まで「食トレンドの先読み術」連載。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で“隠れ家レストランの仕掛け人”として、プロデュースした神楽坂「art et vin HAP(アール・エ・ヴァン ハプ)」が取り上げられる。日本で初めて「レストランビジネス・ジャーナリズム」分野の開拓を目指す傍ら、飲食店プロデューサーとして「レストラントレンド」をテーマに講演・執筆を重ねている。




